

アラブ首長国連邦ドバイのコンテンポラリー・アート・フェア『Art DUBAI 2008』の開催とちょうど重なった3月18日(月)~22日(金)の週は、世界経済にとっても激変の週だった。それまでは、軟調の米ドルを尻目に上昇基調を維持してきたコモディティ・マーケットが大幅下落したからである。この話題で、すぐさまアート市場関係者の間にも激震が走った。
週初めの18日、クルード・オイルは1バレル$111.80の新高値を更新。金にいたっては1トロイオンス$1,080.30のヒストリカル・レコード。だが、火曜日からじりじりと値を下げ、水曜日には、金は過去17年間で最大の下げ幅を記録した。木曜日には値は戻したものの、週末までにクルード・オイルは高値から7.6%、金は7.3%もの大幅に下落。これは貴金属、鉄鋼、非鉄、金属、原料、穀物、エネルギーと全分野にわたった。
今回のコモディティの崩落は、ヘッジファンドによるドル売り・商品買いの大きなポジションが、ドル安に歯止めをかける方向で合意が形成されそうな各国の金融当局の政策方針に反応して、一斉に解消売りに走ったから、との観測が流れている。
20日のファイナンシャル・タイムズによると「商品もふくめてあらゆるアセット・クラスで大規模にレバレッジ取引が解消されているようだ。」(UBSの金属担当ストラテジスト、ジョンリード氏)だという。

アート価格の根強い上昇は、金や石油と同じ『現物資産』として、商品市況のブル・トレンドの中で十分説明が付く事柄でもある。そういう意味で、今回の商品市況の崩落が短期的なコレクションなのか、バブルの崩壊なのか。あるいは商品銘柄の1つとしてのアート市況も崩落を演じるのか、などの懸念が投資家を不安にさせている。
実際、市場関係者の間では、米国バイヤーのプレゼンス縮小を危惧する声もあった。すでにアートプライス社などは「2007年11月がバブルのピークであり、2008年アートマーケットは15%~20%下落する」と予測を発表している。だが、一方でサザビーズ、クリスティーズ、フィリップスの3大オークションハウスは、谷間の季節といわれ続けてきた2月のセールスで、記録的な売上を継続しており、市場の衰えなど全く感じさせない。
今回のコモディティ・マーケットの崩落は、レバレッジの解消売りにあるとされる。1990年、バブルの崩壊により、借金で世界の一流作品を買いあさった日本のコレクターたちは、金融機関から借入金の返済を求められて作品を投売りせざるを得なかった。

その結果、当時のアートマーケットは値段も付かないくらいの大崩落。つまり、この時すでにに、アートマーケットは解消売りを経験していた。20年近くも前の経験のおかげで、アートの購入資金を借金にたよって買っているコレクターはいない。正確には、借金をしてでも作品を買いたいと思う病的なコレクターもいるが、残念ながら作品の購入資金を貸し出してくれる金融機関が皆無だ。つまり、現在のアートマーケットにおいて、大規模なレバレッジの解消売りなど起き様がない。
9・11米国同時多発テロ以降、アートは安全なアセット・クラスと認識され、世界の富裕層のセイフティー・ヘイブンであり、「最後の砦」として機能している。レバレッジを解消し手仕舞いされた膨大な資金が安全を求めてCASHや債券、特に米政府短期証券に流れ込んでいるのであれば、むしろ資金の一部は、必ずアート市場にも流れ込んでくる可能性はある。

こう考えるとIMFの「タイトな需給関係を勘案すれば、世界経済の下落による商品市況の軟化はそんなに大きいものではないかもしれない」との見解は、そのままアートマーケットにも当てはまるのではないか。
実際、クルード・オイルのお膝元アラブ首長国連邦ドバイのアート・フェア「Art DUBAI 2008』はソールド・アウトのブースも多数出るなど、影響はまったくなかった。ちなみに、このフェアの主催者はDIFC(ドバイ国際金融センター)など政府機関。いわばアラブの金融当局がアート・フェアの旗を振っており、コンテンポラリーアートは投資資産として認知されている、といっても過言ではない。
取材協力:秋山敏郎(あきやまとしろう)
1958年生まれ。北九州市出身。83年上智大学哲学科を卒業し、旭通信(現アサツーDK)国際部に入社。89年に退社し、西ドイツケルン大学経済学部経済学科に入学。東欧のマーケティングを学ぶが、東西ドイツの統一に伴い学科が消滅。翌90年ミュンヘン大学美術史学科修士課程に編入。株式会社トシ・インターナショナル代表取締役として、約30社の海外オークション会社の日本代表を務め、日本で随一の海外オークション・エージェント事業を展開。株式会社Art Investment Bank代表取締役として、コンテンポラリーアートの投資アドバイザリーサービスを提供。







